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OTHERS

週末の昼下がり、キッチンに立つと、
フライパンからふんわりと卵の甘い香りが立ち上ってくる。
薄焼き卵に包まれた、真っ赤なケチャップが一本の線のように引かれた、昔ながらのオムライス。
一口食べると、
甘酸っぱいケチャップの味が懐かしく広がって、
子どもの頃の、
なんでもない幸せがじんわりと蘇る。
華やかなデミグラスや濃厚チーズのメニューも素敵だけれど、やっぱり私は、最後にこの素朴な味に戻ってしまう。
そのホッとする佇まいを見つめていると、
私はいつも、ある一匹のポケモンの姿を重ねてしまう。
そう、世界中の誰もが知っていて、私にとっても永遠の原点である、ピカチュウの姿を。
時計の針をぐっと巻き戻して、まだ画面が白黒だった子どもの頃へ。
初代『赤・緑』を妹と遊んでいた頃、私たちはトキワの森で何度も草むらを往復した。
めったに出会えないという電気ネズミの噂を聞きつけて、一歩進むたびに胸が高鳴った。
「あ、出た!」
ようやく現れた小さなドット絵のピカチュウに、妹と二人で部屋の中で飛び上がって喜んだ日の温度は、今でも鮮やかだ。
けれど、そんな喜びも束の間、ハナダジムで大きな壁にぶつかった。
ジムリーダー・カスミのスターミーが強すぎて、なすすべもなく返り討ちに遭ったのだ。
今振り返れば、あの頃の無力さすら、愛おしい旅の始まりだった気がする。
ピカチュウは、ゲームの中だけのデータではなかった。
テレビアニメの中で、大好きなケチャップを抱きしめて嬉しそうに笑う姿。
強くて特別な幻のポケモンとは違う、放っておけない家族のような愛嬌があった。
アニメや映画のスクリーンの向こうで、いつでも私たちと同じ時間を生きてくれていた。
いつの間にか、暮らしの風景に自然と溶け込んでいったのだろう。
長い旅のなかで、私は本当にたくさんのピカチュウたちと出会ってきた。
波しぶきをあげて海を駆ける「なみのりピカチュウ」、
風船をつけて大空を舞う「そらをとぶピカチュウ」、
マダムのドレスをまとった「おきがえピカチュウ」……。
姿かたちは変わっても、どの子も私の旅のアルバムを彩る、かけがえのない一ページだ。
(中には、新しい世界へ連れていけず、泣く泣くお別れした子もいるけれど)
そんな出会いの中で、今も私の手元にいる特別な存在が、カロス地方・ハクダンの森で出会った子だ。
深い緑の森の中で、初めて出会った「色違い」のピカチュウ。
ほんのりオレンジ色に染まった体と、ハートの形をした可愛いしっぽ。
出会った瞬間に、子どもの頃の放課後の草むらへ、一瞬でタイムスリップした気がした。
それから彼女は「ピカチュウ先輩」として、長い時間をそっと寄り添ってくれている。
今、パルデアの木漏れ日の中で、
私はピカチュウ先輩とピクニックのテーブルを囲む。
30年前、
白黒のドット絵で静かに佇んでいた彼女が、
今は私の目の前で耳を震わせ、
トコトコと歩いては駆け寄り、
くるくると回ってくれる。
疲れたら草の上にぽてんと寝転がって、
気持ちよさそうに背中を丸める。
「ああ、本当にここで一緒に生きているんだな」
その姿を見ていると、
胸の奥がじんわりと温かくなる。
白黒の時代から、
黄色い時代、
そしてオレンジ色に輝く今へ。
変わりゆくハードの中でも、
彼女はずっと隣を歩いてきてくれた。

このブログを始めるにあたり、イーブイちゃんが新しい看板になってくれた。
ピカチュウ先輩の役割は、少し後ろに下がることになった。
けれど、彼女の価値が色褪せることはない。
むしろ、中央の役割を譲ったからこそ、
「いつでも安心して帰れる場所」として、より大きな存在になってくれた気がする。
それは、華やかなデミグラスやチーズを味わったあとで、
「やっぱり、これだよね」と戻ってくるケチャップオムライスの安心感に、とてもよく似ている。
ケチャップのないオムライスが少し寂しいように、
ピカチュウのいない日常も、やっぱり少し寂しいから。
パルデアのピクニックサイトで、イーブイちゃんが元気にスキップしている。
その少し離れた特等席で、ピカチュウ先輩は相変わらずのんびりとお昼寝を続けている。
その穏やかな寝顔に向かって、私は心の中でそっと語りかける。
「お疲れ様、ピカチュウ先輩。
これからはここでのんびり、ゆっくり休んでね。
でも、もし私が道に迷って困ったときは、いつもの笑顔で助けてね。」
別れでも引退でもない、優しい世代交代。
30年分の思い出を抱えながら、
今日も私の手元には、甘酸っぱいケチャップのような、変わらない原点の笑顔が優しく灯っている。
四季お楽しみいただきありがとうございました
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